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最高裁判所第二小法廷 昭和26年(オ)424号 判決 1954年2月19日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人森岡三八の上告理由は本判決末尾添付の別紙記載のとおりであり、これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

喪失株券に関する除権判決の効果は、右判決以後当該株券を無効とし、申立人に株券を所持すると同一の地位を回復させるに止まるものであつて、公示催告申立の時に遡つて右株券を無効とするものではなくまた申立人が実質上株主たることを確定するものでもない。

されば、公示催告期間中会社に対し当該株券を提示して株主名簿並に株券の名義書換を請求する第三者があつた場合、右第三者が実質上の権利者であることもあり得べきであるから、会社は単に当該株券につき喪失を理由とする公示催告の申立があるという一事を以て書換を拒むことを得ないのは蓋し当然であつて、これと異る見解に立脚する所論は採り難い。

のみならず、右書換後除権判決のあつた場合、所定期間内に権利の届出及び株券の提出をしなかつた前記第三者が除権判決の効果としてその実質的権利(たとえば公示催告期間中における善意取得にもとづく権利)を失うに至る場合があるかどうか、また会社は株主名簿の最終名義人が右第三者のままとなつている場合、これを株主として一切を処理して免責されるかどうか等の点については必ずしも論議の余地なしとしないが、少くとも除権判決を得た者の会社に対する関係が、株券喪失前におけるそれ以上に出でるものでないことは、前記除権判決の効果から考えて疑を容れないところである。されば、原審が、仮に上告人において訴外錦織英蔵名義の本件株式を譲受けたとしても、本件割当基準日までに株主名簿の名義書換を請求しなかつた以上、割当基準日に自己が株主であつたことを以て被上告会社に対抗し得ないものと判断し、上告人の本訴請求をしりぞけたのは、被上告会社が所論新株を訴外日興証券株式会社に割当てたことの当否の如何にかかわらず、正当であるといわなければならない(本件株券が上告人主張の如く盗取されたものとすれば、それ以後本件除権判決あるまでの間、上告人は株主名簿の名義書換手続を履践しようとしても、為し得ない関係にあるべきことは勿論であるが、その故を以ては上記の解釈を左右するに足りない)。論旨は要するに、独自の見解に立脚して、原審の正当な判断を攻撃するものというほかなく、理由がない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)

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